2026/09/24 10:00
朝、燻製の部屋の扉を開ける。まず部屋を掃除し、燻製器に網をセットしてから、食材を準備する。
湿度は、感覚でも分かるし、湿度計でも確かめる。
そうして燻し始め、香りの付き方を見ながら、足りなければ追加で燻していく。

葦束の燻製は、アジの干物も、ベーコンも、たまごも、全部この部屋の中で作られている。温度は機械が管理してくれる。それでも、チップの様子や香りの付き方、食材の状態は、人の目と鼻で確かめている。そういう工程の積み重ねで、一つひとつの商品ができている。
だから、一度に仕込める量には限りがある。
網に乗せられる量には限りがある。それに、庫内いっぱいに詰め込めば、香りの付き方にムラが出やすい。食材の状態は一枚ごとに違うから、それぞれ目で見て、確かめながら仕込む必要がある。量を増やすというのは、この「確かめる」という工程を薄めることでもある。

7月に、新しい燻製器が仲間に加わった。これまで使ってきた燻製器よりひと回り大きく、庫内の密閉度も上がった機体だ。一度に仕込める量は、以前より増えた。これは事実として、もう記事に書いた。
ただ、勘違いしてほしくないのは、これは「量産のための投資」ではないということだ。新しい燻製器が来ても、中で行っていることは変わらない。網に乗る量、香りの付き方、食材の状態を一つずつ確かめる。大きな機体になっても、その確認を機械に任せたわけではない。むしろ、見るべき範囲がほんの少し広がっただけ、というほうが近い。
網を増やして、庫内いっぱいに詰め込めば、もっと数を作ることはできる。それでも、そこまではしない。香りの付き方や食材の状態を、一つずつ確かめたいからだ。
効率を上げれば、もっと多くの人に届けられる。それは分かっていても、届く数より先に、確かめたいことがある。今日の一つが、ちゃんと今日の一つとして仕上がっているかどうか。その確認を飛ばしてまで、数を増やすつもりはない。

壱岐の小さな島の、小さな部屋から出せる量は、たかが知れている。それでも、その「たかが知れている」量を、毎日誰かが見て、確かめて、送り出している。その一つが、いつか誰かの食卓に並ぶことを思いながら。
派手さはないけれど、そこだけは譲らずにやってきた。
今日も部屋の中では、チップが静かに燃えている。その様子を、目で確かめられる範囲でしか、葦束は燻製を作らない。それは、これからも変わらないと思う。
